講座「読む人の気持ちをつかむ文章術」の質問に答えます

2015年冬期大阪藝術学舎の授業を受講してくれた方の質問に答えるコーナーです

共通項が少ない相手の興味を引くには…? I.I さん

全く興味がない人に読みたいと思わせるために相手が興味を持ちそうな話題から話し始める(第3回の内容)

自分が伝えたい事に対して、全く興味がない相手ということは、自分と共通項が少ないと考えられる。そんな相手の興味を持ちそうなことを見つけるのはとても難しい。それを見つける考え方のヒント、または多くの人に使える話題というのがあれば教えてほしいです。

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f:id:pasoco:20150322225843j:plainお答えします!

たとえば列車が好きで好きでたまらないAさんが列車に興味がない読者に向けて書くとします。Aさんはいくら列車好きだと言っても生まれたときから好きだったわけではなく、あるとき何かのきっかけで、<列車に興味がないA>が<列車好きのA>になったはずです。<列車に興味がないA>は読者との「共通項」になりますよね。興味がない時にどんなことを感じていたのか、それがどうして変わったのか。そんな話なら列車自体に興味がなくても楽しく読めそうです。

もしくは、列車が好きではないその人にも何か別の好きなものがあるはずです。何かが好きで好きでたまらない、という気持ちは共通項になり得ますね。桜と列車を一緒に写真におさめたくて、そのために何日もそわそわ眠れなくて、大荷物で朝早くでかけていったら目当ての駅はもう大きなカメラを担いだ人たちで満杯で、それでも何とか間に入れてもらい、大勢の人たちともみくちゃになりながら桜並木を走る列車を出迎えた…なんて経験談を書いたとしたら、好きなもののためにそんなことまでする面白さが伝わって、列車に興味がない人も楽しく読めると思います。

列車そのものを書くのではなく、何かを情熱的に好きになる気持ちを書けば、多くの人の共感を得られると思います。

どんな切り口で書くかは経験を積むしかないかも。読むのも経験。興味がない話題だったのに面白く読んじゃった!という文章を見つけたら、なんで読めたんだろう…とじっくり観察してみてください。

 

※私信→イニシャル訂正しました!一度耳で聞いたら忘れられない素敵な可愛らしい響き。小説の登場人物に出て来そうです。

自分の文章を校正するには…  by M.Mさん

 仲間外れの文章に気づくことが大切、違和感を大切にするというお話がありました。

 他人の書いた文章を読んでいると、

「何かヘン」

「読みにくいな」

と、気づくことがありますが、自らの書いた文章を読んで違和感に気づく機会は、他人の文章を読んだ時のそれよりもはるかに少ないと感じます。また、とことん意地悪になって自分の書いた文章を校正しようとすると、すべての文章がおかしく思えて、何をどうすればいいのかわからなくなってしまいます。構成においても、ブロックの分け方や並べ方など、これでいいのかわからなくなってきてしまいます。

 自分の文章を読みなおした時の、何をどうしたらいいのかわからなくなる状態を脱し、違和感やヘンな感じに気づき校正を行うために、意地悪になる以外のアプローチの方法はあるのでしょうか。それとも、意地悪になって時間をかけていくしかないのでしょうか。

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f:id:pasoco:20150322225843j:plainお答えします!

 自分の文章って本当にやっかいです。客観的になんて見れっこないんです。よく書けたとほれぼれして盲目になるか、うまく書けなさすぎて全部消したくなるか、たいていそのどちらかです。わたしも実はそうなんです。

 ブログ程度の短い文章ならほれぼれしてられますが、長い小説になると、もう初稿なんて見れたものじゃない。書き終えた瞬間にもう文章も構成もぐちゃぐちゃなのが分かっているので読み返したくない。手をつけたくもない。でも直さないと進まない。校正って億劫で大変な作業です。終わりが見えてきたゴール手前は楽しいんですけどね。

 他人の書いたものなら直せる。だったら、自分の書いた文章を他人が書いた文章のように強制的に勘違いさせればいいんです。そのためにわたしがやってることは、文章の表示を変えながら校正することです。手書きで書いたものをパソコンに移して直し、iPadで小さい文字で全体を横書きで表示させ高速で流し読みして、構成をパソコンで直し、iPhoneに移して寝転がってちまちま文単位の表現を直して、またパソコンに戻して雰囲気のある明朝体で縦書きにして直してみたり。そして印刷してカフェに行って気分を変えて読み返して赤ペンで直してみたり。

…よく途中で原稿がなくならないな…。

 アホみたいな単純な方法ですが、わたしはこれで校正が何とかできているので試してみるといいかもしれません。1行の文字数を小さくしたり、縦にしたり横にしたり、印刷してみたり、携帯で読んでみたり。あの手この手で「ちょっと違う気分」を演出すると、他人の文章校正のように客観的になれるかもしれません。

うまくいったら教えてください。…もしや、これでうまくいくのは、わたしだけだったりして…。

聞くこと、取材編集について by N.Aさん

4回の講座を通じて学んだことは、「おもしろいの探し方」、「思考という海の泳ぎ方」であり、「自分の小さな思いをつなぎ留め、ひもとく覚悟」や読者との関係性でした。

書くことの準備や、調理の段取りについて、少しずつイメージができたり、なんとなく自分がやっていた行為を外部化して見つめることができ、「なるほど、これはそういうことだったのか」と確認ができたりしました。

同時に今回書くことの対にあることが気になっています。すなわち、それは聞くことです。出来事は今、自分の目の前にころがっている事象だけでなく、常に対峙する他者の声や出会いにとって生じるものではないでしょうか。文章の関係性は、読者だけではなく出来事とその先にある人であったり、取材対象者の声との環境の中で生じるものではないかと考えております。

今までの授業を振り返っての質問は、聞くことや、取材編集についての不可欠な段取りや、モットー・秘訣などを詳しくお聞きしたいです。

よろしくお願いします。

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f:id:pasoco:20150322225843j:plainお答えします!

聞くこと(取材)にも、今回の授業がとっても役に立つのです。

取材を申し込むには、なぜ取材したいのかをその人に伝えなくてはなりません。その人のどういうところに魅力を感じ、なぜ取材したいと思ったのかを、しっかり自分の心に向き合って考え、ひとことですませず、具体的に書いて(話して)伝えれば、きっと相手の心をつかめることでしょう。相手の心をつかめたらあとは取材は簡単です。

取材相手の心をつかむ…そう、読む人の心をつかむ文章術でやってきたことの応用バージョンです!

不可欠な段取りは下調べかな。何も知らずに行くのと背景や知識がある程度あるのでは解像度が違う。ただし取材のときは調べたことを確かめるのではなく、さらなる発見・感動を探していきます。

モットーは、取材に応じてくれた相手にとってもよい時間にする!秘訣は愛です。先入観を捨てて、心を開いて、取材対象(人でも場所でも)に対して好き好きオーラを発していれば、五感も活性化しますし、たぶんうまくいきます。

「情報」を書くなら本を読めばできる。でもN.Aさんの言われるように人との関係や出会いは足を使わないと体験できない。取材相手を描写することも大事ですが、自分の心がその人と出会って何を感じ、どう動いたかもいっぱい文章にしてみてくださいね!

無意識の世界と意識の世界が逆になっている?  by. A.Mさん

 何か探さねば…。

 4回のシリーズを通じて教わった文章術は、その一つ一つが十分に納得のいくものであり、とても良く理解できた。後は、実行あるのみ自己研鑽あるのみと思っている。このような状況下で、表記の課題(宿題)<※今までの授業を振り返って、何かひとつ、質問を考えて文章にしてみよう。>が提示された。すぐには思い当たるものがない、何か探さねば…。

 初回から4回までの配布資料の全てに、改めて目を通した。その回ごとの授業の内容や教室の情景が思い出される。ちょっと変わった宿題ではあったが、それに対応することが結果的に授業の強制的復讐になってよかったと思う満足感があった。そんな余韻の中で今回の目的を思い出し、宿題のために敢えて質問を特定した。文章術に関わる直接的な内容ではないので控えめにではあるが…。

 第1回目配布資料14枚目の図について、意識の世界と無意識の世界が逆のような気がして頭がすっきりと整理できず、少しだけ悩んでいる。

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 一般的な感覚で考えると、自動操縦→考えていない→無意識の行動(無意識の世界)、じっくり考える→意識して何かをする(意識の世界)、と思ってしまうが、この図では逆の関係となっている。ただ、授業中の私のメモ書きで、意識の世界に「日常生活」と付記している。当然、日常生活は意識のある状態での活動と思うのでこの内容に齟齬はないように思う。つまり、当日、先生のご説明に納得していた自分がいるので、恐らくお話された内容で何か忘却したものがあるのではないかと思っている。改めてのご説明をいただけますと助かります。

 

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f:id:pasoco:20150322225843j:plainお答えします!


A.Mさん。一生懸命質問を探してくれて復習してくれてありがとうございました。A.Mさんの質問を読みながら、我ながらいい宿題出したなあと自画自賛してしまいました。宿題出したの忘れてましたけど…。いや、でもこうして文章でじっくり答えられた方がよかったです。結果オーライ。

 

本題です。A.Mさんの疑問はまっとうな疑問です。言われて初めて気づきました。この三角形を意識と無意識という言葉で分けたのはあまり適当ではなかったなあ…。あ!わかった!下の黒い三角部分は「無意識」ではなく「潜在意識」と書くべきでした!

てっぺんが無意識、次が意識、そして潜在意識。

日常生活においては何も考えず自動操縦で行動し、1分くらいちょっと考えたりする。でも文章を書いてじっくり考えることで普段はアクセスできない自分の奥底に眠っている想いや考えにまで到達することができる。その人の本当の姿や魅力や生きがいのようなものはこの潜在意識部分に眠っているので文章を書くのは面白いですよ、という話でした。

質問ありがとうございました! 次にこのスライドを使うことがあれば、混乱が起こらないように言葉を変えたいと思います。