講座「読む人の気持ちをつかむ文章術」の質問に答えます

2015年冬期大阪藝術学舎の授業を受講してくれた方の質問に答えるコーナーです

おすすめのエッセイ集を教えてください by S.Hさん

 文章は、仕事上必要に迫られて書くことがほとんどでした。自分の文章を読むことも仕方なくやってきましたが、しばらくして読み直すと何じゃこれと恥ずかしくなることが多く、とりあえず書くけれど書きっぱなしにしてきました。

 今回、読む人の気持ちはつかめないまでも、せめて内容が伝わるくらいの文章を書けるようになりたいと受講を決めました。

 結果はともかく、先生の励ましはありがたかったです。今でも、何となく書けるような気がしているし、毎回いただくコメントのおかげで自分の文章を読み直し、再構成しようとする勇気が出てきました。

 今回までに、夏目漱石夢十夜」、小林秀雄「美を求める心」、江國香織「いくつもの週末」など、そして、寒竹先生の作品の数々を紹介いただきました。図書館や書店で読めるものは読むようにしています。他に、文章術の向上に参考にしやすいお勧めのエッセイ集など紹介いただけるとうれしいです。

 あたたかいイラストでの元気の出る講義、ありがとうございました。

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f:id:pasoco:20150322225843j:plainお答えします!
 書くけど書きっぱなし、その気持ちよく分かります。自分でダメな文章って分かってるから読み返したくないんですよね…。わたしは院生時代、英語で論文書いたときがそうでした。ダメなのは分かっている。でもこれが自分の100%だし、もう無理!…と目をつむってえいやっとボスに提出して、ばっさり赤が入って返ってきて、ああやっぱり…と打ちのめされながらも、なぜかもう一回がんばってみようって思えるんですよね。人に見てもらうって大事です。恐いけど。こんなめちゃくちゃな文章を読んで赤を入れてもらったんだから、その思いに答えなきゃ!って思うのかもしれません。あ、S.Hさんの文章はめちゃくちゃじゃないですよ!わたしの論文がひどかったという話です…。

 お勧めのエッセイですが、わたしは気分転換でさくさく読むのでわりと軽めのものが多いです。文章術の向上に役立つか分かりませんが、楽しんで読んでもらえれば、文章を書く敷居も低くなり、いろんなことを文章で残しておきたくなるかもしれません。

<軽くニヤニヤしながら楽しめるもの>
いろんなスタイルがあるのだなーという参考にどうぞ。頭がぐるぐるします。

世界音痴/穂村 弘 (小学館文庫)
歌人の種村さんの脱力エッセイ。変な人。
<サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい>
という歌を詠む方です。

しあわせのねだん /角田光代 (新潮文庫
角田さんの30代のときのエッセイ。毎日何を食べるかを楽しみに小説を書き続ける日々。あまりのダメさに脱力してしまうけど、そう見せるところが「技」だと思う。
美女と竹林/森見登美彦光文社文庫
竹林で竹を切る体験を語る妄想交じりのエッセイ。エッセイなんだか小説なんだか。独特の語り口にニヤニヤする。
先端で、さすわさされるわそらええわ/川上未映子 青土社
川上未映子さんのエッセイは視点が独特というか。日頃見逃しているいろんなことに対して疑問を持って考えていて、はっとさせられる。タイトルから察せられるように、変なお方ですけど。そこがたまらぬ。最近は子育てエッセイも出されているのでそちらのほうがややマイルドかな?

<人生を振り返りたくなる長いエッセイ>

構成の参考にどうぞ。

走ることについて語るときに僕の語ること/村上春樹文藝春秋
走ることについて語ってるのだけれど、そこに人生観が詰まっている。村上春樹という作家がこうやって作られたのだなあ…と小説を読むように読める長編エッセイ。彼は<構成>が抜群にうまいと思う。
深夜特急/沢木耕太郎新潮文庫
エッセイというよりルポタージュ? 昔、夢中になって読んだのでまた読み返したいなあと思っております。


<文章が味わい深いエッセイ>
私の「漱石」と「龍之介」/内田百閒(ちくま文庫

夏目漱石の弟子だった内田百閒のエッセイ。1編が短いのですいすい読める。内田百閒の目から人間くさい漱石が描写されていて面白い。オチや盛り上げもないのだけど、じわじわっときます。

ああ、挙げだしたらきりがない…!もっとあるんですが!もっと!(笑)

 やっぱり一番のおすすめは好きな作家さんのエッセイを読むことですね。小説とはまた違う面が見れて楽しいです。その他は、ぱらぱらっとめくって1編立ち読みしてみて、好きか嫌いか、それで決めるといいと思います。図書館では人気作家さんの小説はほとんど貸し出されてますが、エッセイコーナーはあまり人が行かないので、たいていの作品はぽつんと残されてたりします。掘り出し物があります。
 わたしはいつも、その場で立ち読みして、ぴんときたのを、大量に借りて、読んで気に入らなかったら、すぐに返してしまいます。読み終わってものすごーく気に入ったら、自分で買って本棚入りさせます。
 自分が書くようになると、エッセイを読む楽しさは増します。新聞のコラムや雑誌のコラムでよさそうなのを見つけたら、本を入手してみるのも手です。エッセイ、面白いですよ。