講座「読む人の気持ちをつかむ文章術」の質問に答えます

2015年冬期大阪藝術学舎の授業を受講してくれた方の質問に答えるコーナーです

タイトルの持つ意味 by M.Kさん

「読む人の気持ちをつかむ文章術」というタイトルに興味を持って、この講座を受講することにしました。文章表現の方法や構成について、具体的な事例やご自身の経験を交えての話をとても興味深く聞かせていただき、また刺激も受けています。

 今までの授業を受けて、何かひとつ、質問をあげるとすれば、それは「タイトルの重要性について」です。小説であれエッセイであれ、自分自身が認識している作家の作品であれば、タイトルよりもその作家の名前に惹かれて読み始めることがほとんどです。しかし、名前を聞いたこともなく、経歴も知らない作家であれば、その文章を読み始める時に、何が書かれているのかを探る大きな手掛かりは、タイトルになるのではないでしょうか。

 先生は、作品を書くにあたって、タイトルの持つ意味をどのように考えているか、聞かせていただければと思います。またタイトルをつける時に、工夫されていることがあれば、合わせて教えていただけますでしょうか。

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f:id:pasoco:20150322225843j:plainお答えします!

わたし、昔、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を、恋人たちがライ麦畑で、あはは~♪ うふふ~♪ さあわたしをつかまえて~♪ って戯れている話だと思って敬遠してたんですよね。でも読んだら全然違いました。もっと違うタイトルだったら、早く読んだのに…と愕然としました(青春小説なので10代のうちに一度読みたかった)。あと、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」は恐い話だと思ってたんですよね。なんか名前が恐いじゃないですか。呪われそうじゃないですか。読んだら全然違いました。もうちょっととっつきやすいタイトルにしてくれたら読者も増えそうなのになあ、と思います。
というわけで、まさにM.Kさんのおっしゃられる通り、タイトル大事なんです。

でも書き手にとっては、タイトルつけるのは荷が重い作業なんですよね…。本文の半分くらい、いや本文に匹敵するくらいの労力がいる。せっかく本文を苦労して完成させたのに、またがんばらないといけない。しかもひとことで書くなと言われて一生懸命文章をつらねて表現したのに、今度は逆にそれをひとことで表現しなくちゃいけない。校庭10周走れって言われてがんばって、ようやくゴールしてぜいぜい言ってるときに、はい、今度は反対周りに10周って言われるようなもので。嫌でしょ。さぼりたいですよね。だから、タイトルなんて重要じゃない、なんて言いたくなるんですが、それはただのさぼるための言いわけであって、やっぱりタイトルは重要ですよ、どう考えても。

タイトルをつけるときのモードは本文を書くときとは違うモードでやるのがコツかもしれません。作り手ではなく、マネージャーか営業マンかキュレーターになったつもりで、ちょっと客観的に第三者に紹介するつもりでさらっとつけるのがコツかも。

この講座のタイトルも、講師のわたしは「おいおい、ちょっと言い過ぎじゃないか、大丈夫か?」とおろおろしていますが、マネージャーモードのわたしが、この方が人が興味持ってくれそうだから、とつけました。
ちなみにわたしは昔、タイトルをつけるのがとても苦手で、作家デビューしたら編集者さんが素敵なタイトルをつけてくれるはず…と甘い考えを抱いていましたが、全然そんなことなく、自分の作品のタイトルは自分で考えるしかないことが分かったので、甘い考えを捨て、せっせと自分で考えるようになりました。

タイトルは本文と同じくらいクリエイティブでしんどくて、本文と同じくらい重要です。